道迷いで、娘と10時間行動 霊仙山 泣きもせず・弱音もはかず、必死についてきた娘に驚きと感激! |
霊仙山山頂 |
●場 所 | 滋賀県犬上郡 | |
●標高 | 霊仙山 1094m |
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●山行日 | 1986年4月6日 | ||
●コース | 醒ヶ井養鱒場・・・榑ケ畑登山口・・・北霊仙山・・・避難小屋・・・8合目・・・7合目・・・道迷い・・・河内の集落・・・JR柏原駅 | ||
●多治見から 登山口まで |
JR根本駅ーJR岐阜駅^JR醒ヶ井駅=タクシー相乗りで醒ヶ井養鱒場へ・・・榑ケ畑登山口 ※ー鉄道 =自動車 ・・・徒歩 ⇒バス ⇔その他 |
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●参加者 | 丹羽、小学生の娘と | ||
●コースタイム | JR根本駅 JR醒ヶ井駅 養鱒場 北霊仙山頂上 JR柏原駅 |
6:38発 8:44着タクシー相乗りで養鱒場へ 8:55頃着〜9:10頃発 13:00〜13:20 19:02発に乗車 |
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醒ヶ井養鱒場から、右に川を見ながら約1時間林道を歩く。 ショウジョウバカマ・スミレ・キブシ・クロモジなど。 フサザクラ キブシ 林道終点には4台の車。登山者らしい。 その1台の車の主から「今、カモシカを見ましたよ。」と聞く。 登山口から細い山道に入る。榑ケ畑(くれがはた)という廃村。 約10分で山小屋に着。 小屋のおじさんから、「こんな天気のいい日は珍しいよ。」と声をかけてもらう。 「雪はどうですか?」と尋ねると「ちょびちょび」という返事だったので一安心。 ここで「柏原への道はどうですか?」と聞けばよかったと後悔しきり。 下山してからの反省・・・ 1合目からの急登を登り始めると大きなミスミソウ。ミヤマカタバミも。 ミスミソウ ミヤマカタバミ 藤原で見かけたものよりずっと大輪。 以後、3合目辺りまで、右にも左にもいっぱい花を咲かせていて、今が見ごろ。
心配していた雪は、頂上の見える7合目辺りからちょっぴり出現。 娘が珍しがって踏みに行く程度で、北霊仙山に到着。 13:00ちょうど。ここまで約4時間歩いてきた。 右手に頂上は見え、20分くらいで行けそうだったが、 今日はここをゴールとし、昼食にする。 期待していた秋のお花畑の場所(5〜7合目間)まだ何もなくてがっかり。 タクシー相乗りの青年も10分後には北霊仙山で会えた。 約20分休んでさあ下山。 2人ずつのグループもちょっと前に下山。 「頑張ってるね、何年生?」などと娘に声をかけてもらい、情報を交換して (漆ケ滝〜醒ヶ井コースで危険な箇所が3ヶ所あったとか)分かれる。
寒いので、長袖シャツの上にトレーナーとヤッケを着て出発。 少し下った避難小屋で若者たちがたむろしていた。 「どこから来ました?」「醒ヶ井からです」 「雪はどうでしたか?」「ほとんどありません」 「僕たち柏原から登ったんですが、ひどい雪で登山道は分かりませんよ。 一人バテて後から来ます。5合目からは全然道が分からなくて、 その靴じゃ(娘のズック靴のこと)大変ですよ」と。
せっかく親切に教えてもらったのに、 去年の3月末の雪から大体想像できたけれど、 2週間は遅いこと。 醒ヶ井コースに雪がほとんどなかったこと。 同じ道は通りたくないと思ったこと。 これだけの若者が歩いているのだから分かるだろうと思ったこと。 このコースの下りは3回目になること。 これで5つの理由になったかな。 しばらく考えてからやっぱり柏原コースで下ることに決定。 ササの中を泳ぐようにクロールや平泳ぎで歩く。 足元が見えないので、ぬかるみの道だと滑りそうになる。 9合目の標識からすぐ深い雪。深い足跡がずぼっと穴を開けている。
既に娘のズックは泥と雪でべたべた。 ザックを下ろして、防風着のズボンとロングスパッツを履かせ、 スパッツがずり下がらないように私のニッカーボッカーの靴下止めを外して付けてやり、 また出発。 この雪の深さで、柏原コースをあきらめ、元の醒ヶ井コースに戻ればよかったと 後から悔やむことしきり。 ところが人間は一度下った所をまた引き返す(登り返す)ことは なかなか思い切ってできないよう。 下れば下るほど、「どうしよう。どうしよう。」と考えながら、 決心がつかないまま歩けば歩くほど遠くなり、登りがえらくなり、 結局はどんどんまちがいを増やすことになると後悔、再再度。 雪はもう登山道全体を覆い、土の道などたまにしかお目にかからない。 娘が滑らないよう、登山靴をどしん・どしんと踏みつけ、 階段を作ってやりながら歩くのでなかなか進まない。
軍手をはめた手で、左・右、なんにでもつかまれるものにはつかまり、 「冷たいよう」という声には「がまんがまん。 雪がない道まで行ったら何とか考えてあげるから」と、 指示やら励ましやらで後からついて来させる。 8合目の標識を確認し、上り下りの足跡がゴチャゴチャついている雪道を 辿っていくのだが、その雪道が平らな所へ出ると1本ではなく、何本も何本もでき、 どれが正しいコースなのか分からなくなってくる。 木に縛ってある赤いテープを探し探し、7合目の標識も確認。 娘が「足が凍りそう」と訴えるので、ザックを下ろし、娘を座らせ、 濡れた靴下を脱がせ、大判のハンカチで足を包みその上にビニール袋、 また濡れた靴下、靴という順に履かせて応急処置をしたところ、暖かいと好評。
娘のザックを私のザックの中に入れ、ぱらついてきた雨のためヤッケを再び着てさあ出発。 「4合目の避難小屋まで行けば後は雪がぐっと少なくなるはずなので、 それまでは頑張ってね」と声をかけて歩き始める。 7合目もしばらくは景色に見覚えがあるし、足跡もあるしでゆとりを持って歩いていた。
そして、多分この辺りで間違えたと今は思えるのだが、 左の方に赤いテープと赤い棒(地上から20cmくらい出ている)が、 ずっと下まで続いているのを見、(多分まっすぐ前方にも人の足跡が続いていたのだろうが) 迷うことなく左手へ入り込んでしまった。 秋に来た時も、新しく木を切り倒し、まっすぐ左へ入る道があったこと、 そこを実際通って結局は、5合目付近で合流したことが記憶の底にあったので、 どんどんずんずん赤テープと赤い棒に導かれるように降りて行った。
先程追い抜いて行った青年が、「こっちの道でいいのですか?」と尋ねた時も 何の疑いもなく「ええ、そうですよ。これは新しい道ですよ」と答えてしまった!! どうしよう、あの青年、無事に帰れたかしら。 私が自信たっぷりに答えたので安心したのか、その青年も赤テープと 赤い棒に従ってどんどん降りていく。 ところがあまりにも急すぎる。 道など陰も形もない。 いったん谷に降りた青年が向こうの山に取り付いてウロウロしている。 「道がありましたか〜?」と大声を出すと「ないー!」の返事。 これは大変。間違えたと思い、急な本当に急な(まるで崖)を必死で引き返した。 時計は16時近い。 急がないと日が暮れる。 青年が元いた所まで這い上がって、またもや下へ下へと下る。 今から思えば、上へ戻らなければいけなかった。 下の方には、赤いテープがやっぱり見える。 でも、谷川なんてあるはずがない。 私の記憶のどこを探しても谷川はない。おかしい! 不安が胸を重くする。 右下にスギ林が見える。あれもおかしい! 雑木ばかりの明るい道のはず。
どうしよう。気が焦る。足がもつれ躓く。 しかし、じっと立ち止まることは余計不安が増す。 足ばかり前へ前へ。下へ下へと進んでとうとう杉林まで降りてしまった。 右下には谷川が音を立てて流れている。 もう絶対違う。さっきまでの少しばかりの「もしや」は、完全に否定された。 「どうしよう。これはいかんわ。間違えたわ。こんな道見たこともないもの」 と言ってザックから地図を出し、念入りに念入りに見た。 川はとんでもない所に流れていた。
登山道はずっと右手の方。 稜線はずっとずっと上の方。時刻は16時過ぎ、 13:20に北霊仙山を出発し、もう3時間も過ぎている。 今さら戻って醒ヶ井コースには戻れない。どうしよう。 下りに3時間かかっている所をまた登って行くとしたら3時間以上は絶対かかる。 18時には暗くなる、 それまでに「道」へでなければ足下が危なくなって動けなくなる。 娘に、「今日中に帰れないかもしれないわ」 「野宿しなくてはいけないかもしれないわ」と話す。 食料はあるし、セーターもあるし、やってできないことは無いなと思いつつ、 しかし、山の会に下山報告ができないし、明日から学校だし・・・ どうしよう。また地図を見る。 娘は、健気にも、「川に沿ってどんどん降りて行ったら 村に出るんじゃないの」と言う。
それはそうだが「川に沿っての下りは足元が悪く危険。稜線へ出るのは良い」 とどこかに書いてあったのを思い出し、川の縁にちらと見える赤い棒を頼りに、 いったんは川まで下り、前面の山を這い上がることにする。 その山はつい最近切り倒され、垣根のように組んである(マンサクがまだ 黄色い花をつけたまま切られ切り口が新しい)なんて考えていた。 必死で稜線に出るとあった!道が! 立派に踏み込まれた懐かしい道があるではないか。 そしてなんとなく見覚えがある。 そのことを娘に言うと、とても喜んだ。 が、しかし、両側の木が伐られているのが気に入らない。
ここで一服して気を落ち着けることにして、チョコレートとココアをおなかに入れ、 時計を気にしながら早々に立ち上がり よく踏み込まれたやっぱり赤いテープと赤い棒のある道を下っていくと!! また突然道が無くなった! 伊吹山が見える道なので方向は違っていなかったと思っていたのに、 やっぱりここもおかしい。 もう一つ向こうの稜線ははるかはるかかなた。 今さらあんな遠い所まで行くことができない。 やっぱり赤い棒は下の方へ続いているのでもうこれに従って 下へ下へ行くより仕方がないと決める。 林業の人が通る道の目印かもしれない。 もうこうなった以上は下へ下へと赤色に導かれて下り、 林道に運良くぶつかるまで下り続けるしかないと決心する。 時刻は17時に近くなる。焦る。
急な道を一歩一歩気を付けて、左の谷川へ転がり落ちないよう真剣に下る。 ん?ずっと下に丸太がゴロゴロ転がっている。 そこは広場か、道のように見える(木の葉の隙間から見るので、はっきり確認できない) 「あった!あったよ!」「道があったよ!広い道だよ!」「林道があったよ!」と 後ろから付いて来る娘に伝える。 「本当?」半信半疑と嬉しさの混じった声が返ってくる。 あ〜、本当の道。車の通れる本当の林道。 地図を見ると、あるある。このままずっと歩いて行くと「河内」という集落に出られるらしい。 良かったあ〜! 1時間も歩けば国道へ出れそう。 そこまで行くうちにお店もあるだろうし、電話もあるだろうからと、速足で歩くことにする。 17時が過ぎた。
娘とぎゅっと手をつないで今までの不安感をいろいろ話し続けた。 もう泣けそうになったこと、野宿をしたらどうなっただろうかとか、 どこで間違えたのかとか、話しているうちに、 「でも、まだ人に会わないと、家を見ないと本当に安心できないね」と不安になる。 18時頃、国道に出た。 電話がなく、柏原駅まで約1時間歩いて、公衆電話から下山報告の電話を掛けた。 19:02の列車にギリギリで間に合い、飛び乗った。 2万7510歩。約10時間の行動時間だった。 ・・・・・・・・・ 夜中強い風が窓ガラスをガタガタさせ、眠れない。 山は吹雪ではないだろうかと・・・ |